日本は国土が狭く、その一方で多くの人口を抱えているため、国土を計画的・合理的に利用していくことが重要です。
農地法に基づく農地転用許可制度は、食糧供給の基盤である優良農地の確保と、住宅地や工場用地等の非農業的土地利用との調整を図り、計画的な土地利用を確保するという観点から定められています。
ポイントは、以下の2点です。
農地と宅地等の非農地、どちらも生活に必要な土地ですが、限られた国土を計画的に利用するために農地転用制度があります。
農地転用許可制度は、優良農地の確保と計画的土地利用の推進を図るために定められています。
これらの場合には、農地法上原則として都道府県知事の許可(4haを超える場合は大臣許可)が必要です。なお、農地転用許可事務等を市町村に委譲している場合があり、都道府県庁ではなく市町村役場の窓口にて申請が可能となっています。
市街化区域内農地の転用については、許可ではなく農業委員会への届出制となっています。
農地転用には、そのパターンによって「3条・4条・5条」の3つの種類があります。それぞれ、農地法の第3条、第4条、第5条に定められいることからこのように呼ばれます。
農地転用許可は、都道府県知事の許可となります。なお、農地が4haを超える場合(地域整備法に基づく場合を除く)には農林水産大臣の許可となります。
2haを超え4ha以下の農地について転用を都道府県知事が許可しようとする場合には、予め農林水産大臣に協議することとされています。
農地転用制度の元となる法律が農地法です。農地転用は、この法律に基づき定められている制度です。
この農地法は、平成21年12月15日に改正法が施行されました。ポイントは、
ということなのですが、第1条から大きく変わったので、ちょっと見てみましょう。
旧農地法第1条(目的)
「この法律は、農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整し、もつて耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目的とする。」
これが、
改正農地法第1条(目的)
「この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。」
このようになりました。
言い回しが変わったというようなものではなく、「農地を農地以外のものにすることを規制する」と明文化されています。この農地を農地以外のものにすることを規制する手続きが、正しく農地転用です。
ですから、法改正によって転用規制がより強化されました。従前は転用許可がおりたケースでもあっても、法改正以降は転用できなくなった事例が多く見受けられます。
登記簿や固定資産台帳には、その土地それぞれに宅地や田などの地目が記載されています。しかし、それだけではありません。農地かどうかの判断は、現況がどうなっているかも大事です。
登記簿等では農地になっていなくても、実際に耕作されている土地だった場合は、許可(届出)が必要になることがあります。
また、逆のケースで、登記簿等では農地なのに、現況が宅地であったり資材置き場だったりした場合は、無許可転用として罰せられることもあります。
「自分の土地だから自由に使っていいだろう」と思う気持ちはよく分かりますが、それが農地であった場合は、自動的に農地法とは切っても切り離せない土地になってしまっているのです。
農地の利用目的を変えるというのは、簡単そうで、実は大変なことなのです。
3条は「権利移動」に関するものです。農地は農地のままで、それを耕す人(または持ち主)が変更になる場合の許可、と言うと分かりやすいでしょうか。
具体的には、個人または農業生産法人が農業をする目的で農地の売買・貸借等をし、権利(所有権、永小作権、質権、賃借権等)を取得した場合が挙げられます。
相続、時効取得の場合などは、第3条の許可は不要となります。(3条許可不要の場合でも届出は必要になります。)
農地等を売買し、土地の名義変更をする際は、法務局で所有権を変えるための「所有権移転登記」を行いますが、この申請には農地法許可書が必要です。ですから、農地転用の許可を得ずに登記することはできません。
よって、農地等の売買をする場合は、並行して農地転用許可の申請を進め、許可が下り次第、売買契約を実行し、登記申請を行うことになります。
農地法第3条の許可に違反した場合、3年以下の懲役または300万円以下(法人の場合は1億円以下)の罰金に処せられます。
3条許可は、農地を売買して手に入れるための許可ですが、農地の買受人(又は借受人)になるためには、一定の要件(例:買受人の農家要件など)を満たす必要があります。つまり、農家でもないのに農地をそのまま買おうとしても、買えない(許可が下りない)ということです。
これは3条に限ったことではありませんが、農地転用は市町村で運用が異なる場合があるので、申請窓口(農業委員会)と相談しながら手続きを進めましょう。
4条許可・5条許可は、農地を農地以外のものに変える転用の許可です。いくら自分の土地であっても、農地を他の用途に使いたい場合は許可が必要です。
4条は「転用」に関するものです。自分の農地を転用する(土地の名義・持ち主はそのままに、農地を宅地等に変更する)場合の許可です。許可申請者は、転用を行う者(農地所有者)です。
5条は、3条の「権利移動」と4条の「転用」を同時に行うものです。事業者等が農地を買って転売する場合や、農地を宅地にして子の家を建てる場合等があります。許可申請は、売主(または貸主、農地所有者)と買主(または借主、転用事業者)の2者で行います。
転用する農地面積が4ha(4000平方メートル)以下の場合は都道府県知事の許可、面積が4ha(4000平方メートル)を超えるような場合は、農林水産大臣の許可が必要となります。
2haを超え4ha以下の農地を転用する場合は都道府県知事の許可ですが、都道府県知事が許可しようとする場合には、予め農林水産大臣に協議することとされています。
農地転用の許可は、大きい土地になればなるほど大掛かりになり、許可基準も厳しくなります。
例えば、1000平方メートルの土地があっても、実際に転用したい部分が500平方メートルだけの場合は、まず土地を分筆(測量して番地を分ける)し、その後に農地転用の申請をします。
農地転用の申請には、土地の登記簿や公図の写し(土地の測量図のようなもの)が必要ですが、分筆してから許可申請をする場合は、分筆後でなければこれらの書類が取れないため、申請までに時間がかかります。
また、その土地によって土地改良区等の意見や必要になる場合があります。
農地転用は、全ての土地でできるわけではありません。その土地の場所や状況等により、どうしてもできない土地があります。書類を揃えて申請すれば何でも通るというのではなく、どんなに転用したくても転用できない土地があります。
ここに家を建てたいな・・・と思っていたけどダメだった、ということもあります。それだけ、農地転用の許可は厳しいのです。
ただ、永遠に転用できないかというと、そうとも限りません。将来、転用できる土地に変わることもあります。例えば、近隣の都市化が進んで転用可能になったり、土地改良から年数が経って転用してもよくなったりする場合はあります。(あくまで、なる場合があるというだけです。)
ですから、農地転用を考えるときは、まずその土地が転用可能かどうか調べるところから始まります。
さて、4条許可・5条許可で説明したとおり、転用の許可はそんなに簡単ではないと思っていただけたかと思いますが、比較的容易に転用できる場所もあります。
都市計画法による市街化区域内の農地転用については、特則により農業委員会への届出をすればよいことになっています。
許可と同様、こちらも4条と5条があります。違いは許可の場合と同じです。
市街化区域とは、都市計画法に基づき指定された区域で、既に市街地を形成している区域、及び、概ね10年以内に優先的、計画的に市街化を図るべき区域のことです。
都市計画区域のうち、既に市街地になっている区域や公共施設を整備するなど積極的に市街地を作っていく区域です。
逆に、市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域です。
市街化調整区域では、開発行為は原則として抑制され、都市施設の整備も原則として行われません。新たに建築物を建てたり、増築することが原則としてできません。
一定規模までの農林水産業施設や、公的な施設、および公的機関による土地区画整理事業などによる整備等は可能な場合がありますが、市街化調整区域というのは、既存建築物を除き、農林水産業などの田園地帯の区域ということです。
どちらも役所に出すものですが、中身は大きく異なります。
お堅い表現をすると・・・
違いを簡単に説明すると、許可は、申請を受けた行政官庁の判断によって許可されたり不許可だったりするものです。申請を出しただけではダメで、それが審査されて、マルかバツか出てくるのが許可申請です。
一方の届出は、行政官庁に出せばOKで、出した後の審査はありません。窓口で、書式(書類が揃っているかや記載が正しいかなど)の審査はありますが、受理されたら、それでOKということです。
転用したい農地が農業振興地域の「農用地区域」に該当していた場合、農地法による転用許可を受ける前に農用地区域からの除外(農振除外)をする必要があります。この申請を農振除外申請と言います。
農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進するため、また農業の近代化のために必要な条件を備えた農業地域を保全し、形成するために定められた地域です。
以下の4つを全て満たす必要があります。
市町村によって期間は異なりますが、受付が年に数回しかなく、申請してからOKが出るまで2ヶ月~半年くらいかかります。実際に農地転用する場合は、この農振除外が通ってから転用許可申請をすることになりますから、全体で1年かかるケースもあります。
農用地区域の変更を内容とする農用地利用計画の決定に当たっては、関係権利者の意向を反映させるため、農用地利用計画案を公告し、30日間縦覧するとともに、15日間の異議申出期間が設けられています。また、農地転用を伴う場合は、農地転用許可処分との整合を保つため、事前に転用許可権者との調整を図ることとされています。
立地基準と一般基準があります。
許可申請の内容について
農地は、営農条件および市街地化の状況から見て次の5種類に区分されています。農地転用しやすい農地と、そうでない農地があります。
市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地
市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった農地(8年以内)等特に良好な営農条件を備えている農地
20ha以上の規模の一団の農地、土地改良事業等の対象となった農地等良好な営農条件を備えている農地
鉄道の駅が500m以内にある等市街地化が見込まれる農地または生産性の低い小集団の農地
鉄道の駅が300m以内にある等の市街地の区域または市街地化の傾向が著しい区域にある農地
次の農地は原則として許可されません。
(農用地区域からの除外又は用途変更が必要)
(甲種農地)
(第1種農地)
次の農地(第2種農地)に該当し、他に代替する土地があると認められる場合は許可されません。
(第3種農地)(市街地や市街化の傾向が著しい区域)は原則として許可されます。また、市街化区域内の農地は届出制となっています。
農地転用の手続きは、申請書類を窓口(農業委員会など)に提出すればよいのですが、その申請書類を作るためには時間と労力を要します。
登記簿や公図の写しのように、法務局で申請すればすぐにもらえるものは入手が容易ですが、申請書類はそれだけではありません。
その土地の状況によって必要な書類が大きく変わってきますが、土地改良区の意見書や土地の関係権利者の同意などが必要な場合、それらをもらうために、書類を持って関係各所を回らなければなりません。ハンコをもらうために数日要するものもあります。
大体このような流れになります。申請書が受理されれば、とりあえず一段落です。
次に、申請後の流れです。
添付書類はケースごとに異なりますが、以下に該当するものは基本的に必要です。
申請してから許可が下りるまでの期間の目安です。
およそ1ヵ月半です。申請後は気長に待つしかありません。
なお、これはあくまで申請してからの期間なので、申請の準備を含めるともっとかかります。農振除外も含めると、半年以上~1年かかるケースもあります。
農地を転用したり、転用のために農地を売買等する場合には、原則として農地転用許可を受けなければなりません。また、許可後において転用目的を変更する場合には、事業計画の変更等の手続きを行う必要があります。
許可を受けないで無断で農地を転用した場合(いわゆる無断転用)や、転用許可に係る事業計画どおりに転用していない場合は、農地法に違反することとなり、許可の取り消しや工事の中止、原状回復等の命令がなされる場合があります。また、違反転用には懲役や罰金という罰則の適用もあります。
平成21年12月の法改正により、農地転用が従前より厳しく、厳格に、厳しくなったのは転用だけではなく、罰則規定も強化されました。
具体的には以下の表のように罰則が強化され、特に罰金額が大幅に上げられました。
罰則 | 旧 | 新 | |
違反転用 |
3年以下の懲役または 300万円以下の罰金 (法人は300万円以下の罰金) |
→ |
3年以下の懲役または 300万円以下の罰金 (法人は1億円以下の罰金) |
---|---|---|---|
違反転用における 原状回復命令違反 |
6ヵ月以下の懲役 または30万円以下の罰金 (法人は30万円以下の罰金) |
→ |
3年以下の懲役 または300万円以下の罰金 (法人は1億円以下の罰金) |
上記罰則には違反転用というものがあります。違反転用とはどのようなものを指すのでしょうか。農地法によると、以下のように定められています。
これらの者には、「許可の取り消し」、「新たな条件を付す」、「工事などの停止」、「原状回復」などの措置が講じられます。
行政代執行とは、行政上の強制執行の一種であり、義務者(例:原状回復しなければならない違反転用者)が義務を履行しない場合に、行政庁が代わりに行い、費用を義務者から徴収することをいいます。
これも平成21年12月の法改正により規定されました。
農林水産大臣または都道府県知事は、土地の農業上の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要があると認める場合であって、次のいずれかに該当すると認めるときは、自らその原状回復等の措置の全部または一部を講ずることができます(農地法第51条第3項)。
農林水産大臣又は都道府県知事は、原状回復等の措置の全部又は一部を講じたときは、その要した費用について、違反転用者等に負担させることができます(農地法第51条第4項)。